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  現代新書カフェ
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□        講談社 現代新書カフェ〜070〜                 
□            2010年6月18日                   
□                                 
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  ‖ 《1》6月新刊4点です!
  ‖ 《2》新連載! 「デフレカルチャー」速水健朗               
   ‖              
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  現代新書カフェにようこそ。
  
  はやぶさの帰還は本当に快挙でした。
  それにしてもおもしろかったのが
  小惑星イトカワの地名。
  相模原・淵野辺・鴨居と並んでいて、
  命名者に横浜線関係者でもいるのかと思いました。

  今号から久々に新連載が始まります。
  『自分探しが止まらない』『ケータイ小説的』などの著書などで
  メディア論・若者文化を解き明かし話題の速水健朗さんが、
  1990年代末以降の不況下で出てきた文化について分析します。      
  すでに店頭に並び始めた6月刊紹介と併せ、お楽しみください。
  

  
    
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◆  《1》新書6月新刊4点です!◆
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   ◇2054『<わかりやすさ>の勉強法』 池上 彰 定価756円
  http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288054

                        【担当者挨拶】
 池上彰氏は、テレビの現場で「わかりやすくニュースを解説する技術」を試
行錯誤しながら身につけ、磨いてきました。
 本書のタイトルは「勉強法」ですが、これは「机に向かっての勉強」ではな
く、「毎日の仕事や生活の中でできる勉強」という意味です。
 新聞の読み込み方や、ネットの使い方、本の読み方、超シンプルでアナログ
なノートの取り方などの「インプット」から、自分なりの話のキモの見つけ方、
テレビで短時間に相手をつかんで話を伝えるノウハウなどの「アウトプット」
まで、シンプルで、ビジネスにも日常生活にも、応用できることばかりです。
 全10章からなる本書は、気になるところから読むことが可能。池上氏が第
一線で培ってきたノウハウを、惜しみなく、具体的にやさしく語っています。
                                                          (堀沢) 

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   ◇2055『世界の野菜を旅する』玉村豊男 定価798円
    http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288055

            【担当者挨拶】  
 手元に黄ばんだ文庫があります。文春文庫から1983年に出た『料理の四面
体』。
 ブイヤベースからアジの干物まで、東西のさまざまな料理の方法を鮮やかに
分類した名著です。
 学生時代に読んでノックアウトされ、編集者を志した原点でもあります。
 その著者、玉村豊男さんが、野菜の歴史、料理法、文化史を盛り込んだ渾身
の書が、この『世界の野菜を旅する』。
 世界中を旅して体験した、原産地ならではのレシピや知られざる逸話が盛り
だくさん。
 読むと腹が減り、レシピを試したくなり、海外に出かけたくなりますのでご
注意を。(H.O.)
  
・─────────────────────────────────・
   ◇2056『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』
                 河合太介+渡部 幹 定価798円
 http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288056

                      【担当者挨拶】
 コンサルタントの河合さんが、さまざまな企業の人事担当から「最近ウチの
会社でフリーライダーが多くて」というような相談を受けるようになったのは、
3年ほど前からだそうです。
 フリーライダー、つまり「ただのり」。自分からは協力しないでほかのメン
バーの労力などに依存している人のこと。フリーライダー自体はどこでも存在
しています。奥さんに家事を任せっぱなしの旦那さんは家庭内においてはフリ
ーライダーだし、「仕事の忙しさ」を言い訳に使ってPTAの役員から逃げ回
っている人もまた、PTAにおけるフリーライダーです。もちろん会社にだっ
て以前からいわゆる「アガリ系」のおじさんに代表されるようなフリーライダ
ーは存在していました。
 それがとくに最近、多くの会社で問題になってきたのはなぜでしょう?
 まずは以前に比べ、人も減り仕事内容も厳しくなる中で職場に余裕がなくな
っていること、そして職場内で仕事以外での交流が減り、お互いの人となりを
知る機会が減ってきたこと、さらに成果主義などの浸透に伴い新しいタイプの
フリーライダーが出てきていること、などがあげられます。
 本書ではさまざまな会社へのインタビューを通じ、いまの日本の会社のフリ
ーライダーの実態を明らかにするとともに、フリーライダー問題を社会心理学
から研究している渡部さんが、フリーライダーの発生と見極めを明らかにしま
す。そしてそのうえでフリーライダーにさせない、ならないための方策を明ら
かにしていきます。
 すでにダイヤモンド・オンラインではフリーライダーに関する連載を9日か
ら隔週アップでスタート(http://diamond.jp/category/s-freerider)、連載
の中でも第1回から断トツの支持を集めているようです。
  書店店頭でも目立つイラスト(4パターン存在するフリーライダーのうち、
3パターンが登場)を見かけたら、是非手にとってご覧ください。
                                                            (TH)
・─────────────────────────────────・ 
   ◇2057『自立が苦手な人へ―福沢諭吉と夏目漱石に学ぶ』
                     長山靖生 定価777円
 http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288057
 
            【担当者挨拶】   
 日本人は自信を失っている。
 仕事も家族関係も現状維持のままでいいと思っているようだ。
 そんな報道をよく耳にします。
「就活」に加えて「婚活」という言葉もよく目にするようになりました。
「就活」は分かるけれども、「婚活」って、あり?
 などとつぶやいてしまう高齢者のメイドです。
 どうも親離れができていない人が増えているようだ、とシンプルに考え、「仕
事が苦手な人へ」というテーマでお願いしていた長山先生に、「自立が苦手な人
へ」と、路線変更をしたらいかがでしょうと提案をしてみました。
 この問題を日本の「近代」から読み解くという長山先生からの逆提案に、即
「お願いします」と返事をいたしました。
 仕事もダメ、結婚もダメ、何もかもがダメとお嘆きのあなた、これは現代の
日本社会が孕む問題ではなく、日本の「近代」が始まったときから、我々が抱
えてきた「困難さ」なのだと本作品は説きます。
 福沢諭吉の「自尊独立(自立)」、夏目漱石の「自己本位(自分らしさ)」と
声に出してみるだけでも生きる勇気が湧いてくる名言です。
 仕事を続ける「困難さ」、結婚相手を見つける「困難さ」(もしくは結婚生活
を順調に続ける「困難さ」)、そして生きる「困難さ」を語らせたら、右に出る
人はいないといううだうだとした(先生、ごめんなさい!)長山節を存分に味
わってください。             (メイド岡部)
 
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◆  《2》連載企画        ◆
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     C  
     D 新連載!「デフレカルチャー」   速水健朗
     C 第1回 「生まれたときから不況の世代」 
     D
     CDCDCDCDCDCDCDCDCDCDCDCDCD

■不況ネイティブ世代

 ものごころがついた頃からすでにパソコンやインターネット、携帯電話が存
在していたする世代を“デジタル・ネイティブ”と呼ぶのだという。日本版デ
ジタル・ネイティブとは、携帯電話やパソコンの普及が進んだ1990年代末に
小学校時代を過ごしている80年代後半から90年代前半生まれの世代以降に当
たるだろう。
 これに倣って、不況がものごころのついた頃からずっと続いている“不況ネ
イティブ”世代について考えてみることができるのではないか。日本の経済の
低迷期を、仮に1991年のバブル崩壊以後と仮定するなら、“不況ネイティブ”
の世代とは、その当時小学生だった世代ということになる。仮に当時小学校5
〜6年生だった年代、つまり今年2010年に30歳を迎える世代以下を“不況ネ
イティブ世代”として考えてみたい。
 総務省統計局の2010年の人口推計によると、日本人の人口は1億2736万人。
そのうち、0歳〜29歳は3723万人。まだ赤ちゃんの世代まで含めてしまうこ
とになるが、“不況ネイティブ世代”は現時点で29パーセントを占めるという
計算になる。ちなみに戦前、戦中生まれの人口が2932万人で、23パーセント
である。戦後復興期の貧困を知る層よりも、不況しか知らない世代の数の方が
多くなってしまっているのだ。

「生まれたときから日本はこんな感じで、今さら不況だからどうとか言われて
もよくわからない」

 これは『小悪魔ageha』(インフォレスト)2009年3月号の表紙を飾ったキ
ャッチコピーである。ここから“不況ネイティブ世代”の像を垣間見ることが
できそうだ。
 女性ファッション誌の表紙に「不況」というマクロ経済用語が飛び出してく
るだけで少し驚くが、中身をよく読めばこのキャッチの意味は理解できなくも
ない。一見華やかな女性ファッション誌ではあるのだが、この雑誌のモデルた
ちが身につけている服やアクセサリー、そして紹介されているコスメの類はど
れも安価なものばかり。『小悪魔ageha』のコンセプトには、コストをかけず
にファッションやメイクを楽しむという、デフレ時代ならではの発想が貫かれ
ている。さらに言うと、ショッピングモールなどのギャル服を扱うショップを
のぞいてみるとわかるのだが、ギャル服はとても安価である。
 ほんの5年ほど前まではこの世の春を謳歌していた赤文字系女性ファッショ
ン誌は、いまや見る影もないほどに部数は激減している。代わって現在の雑誌
の世界でもっとも元気があるのは『Popteen』(角川春樹事務所)の50万部を筆
頭にしたギャル雑誌だ。2010年になってからのギャル雑誌の創刊も後を絶た
ない。
 そんなギャル雑誌たちはどれも『小悪魔ageha』同様、めちゃくちゃ安い商
品が並び、ハイブランドどころか、ファッション雑誌にもかかわらずアパレル
メーカーの広告すらほとんどない。コスメグッズの激安通販、あやしげな出会
い系ネットサービスや健康食品にギャル専門の学校。そんな広告が並んでいる。
 高級な海外ブランドのバッグなどには目もくれず、ひたすら安くファッショ
ンやメイクを楽しむという流儀は、『小悪魔ageha』に限らず、ギャルの世界
全体に広がっている思想なのだ。
 その象徴的存在、現代のギャルたちが憧れるナンバーワンの存在である益若
つばさ(『Popteen』の読者モデル出身)のモットーは「倹約」である。テレビ
や雑誌などで見ない日はないくらいの売れっ子となった今でも足立区のマンシ
ョンに住みつづけている。ここからは、かつてのファッションモデルとはまっ
たく違った文化を垣間見ることができる。

■文化=カルチャーの定義

 ギャルたちが共有する価値観とは、“不況ネイティブ世代”ならではのもの
と言えるのではないか。先ほど挙げた「今さら不況だからどうとか言われても
よくわからない」というキャッチフレーズは、そんな彼女たちの価値観をうま
く捉えている。不況を嘆く大人たちを尻目に、自分たちにとっては当たり前の
ものとして、いやむしろポジティブなものとして不況を捉え、その中でいかに
楽しく生きるかを宣言しているのだ。

 さて、“文化”の定義とは、一定の層に共有されるゆるやかな価値観のこと
である。経済の停滞によって余儀なくされる生活が一定期間にわたり定着し、
その環境で育った人間にゆるやかな価値観が共有される。ここではそれを“デ
フレカルチャー”と名付けておく。
 不況が今の日本のように長く続き、半ば定着した環境が10年、15年続いた
のだ。それは文化を生むには十分の期間であり、不況に根ざした生活様式、そ
れに引きずられた価値観が生まれるというのは自明のことである。
 すでに取り上げた『小悪魔ageha』や益若つばさに見られるように、ギャル
文化を形成する背景に「経済の停滞」、「安いもの」が大量に作られ、消費さ
れている「デフレ蔓延」などのキーワードが挙げられる。不況という経済状況
が、彼女たちの文化の形成に大きな役割を果たしているのである。

 そもそも歴史を振り返ってみると、ギャルという言葉が使われるようになっ
た70年代後半頃、この言葉は、神戸や横浜のお嬢様学校(女子大)に通う層
を指して使われた。“ニュートラ”“ハマトラ”ブームの時代である。女子大
生という新しく生まれつつあった消費層をネーミングしたのがギャルの始まり
であったように思われ、それは階層としてはアッパーミドルクラスだった。
 それが、バブル期の80年代末になると、ボディコンをまとってディスコに
繰り出す層がギャルと呼ばれるようになる。“オヤジギャル”の時代である。
ファッションの分類で言えばコンサバで、消費者としては敏感な部類。テレビ
の視聴者の区分で言えば、トレンディドラマなどのターゲットとなった、F1
層と呼ばれる層の登場である。階層でいえば、中間層に落ちたと言えるだろう。
 その80年代のコンサバ層とは解離した形で、90年代半ばにコギャルが登場
する。年齢的にも10代後半と引き下げられたが、時代状況に沿った形で消費
生活を謳歌するという色合いも薄く、ブランドロゴを手描きで真似る“なんち
ゃってシャネル”の上履きなどが流行した。階層としては、むしろ中間層が消
えてゆく時代を象徴した“中の下”もしくは“やや下層寄り”といったところ
だろうか。
 そして、2000年頃以降の“ギャル”が、さらにこのコギャルとは違う文化
を形成しているというのはすでに述べたとおりである。
“ギャル”という言葉ひとつとっても、時代ごとに消費傾向、階層は変わって
いるのだ。文化と経済状況の関わりは密接なのである。


■90年代以降の不況とデフレを振り返ってみる

 本連載は、90年代後半から00年代にかけての不況・デフレという経済状況
が生み出した文化を“デフレカルチャー”と定義し、そこから90年代以降の
日本社会を考えてみようという趣旨のものである。もちろん、不況=デフレで
はない。ここでは、90年代以降の不況というものを少しだけさらっておこう。

 1992年から2001年の間は、長く不況が続いた時期である。この10年間の
平均経済成長率は、1.3パーセント。極めて低い数字を記録した。いわゆる「失
われた10年」と呼ばれる時代がこの時期である。就職氷河期の始まり(1993
年)から山一證券の自主廃業(1997年)など、不景気を象徴する出来事が立
て続けに起きている。特に大きな落ち込みとしては、消費税が引き上げられ
(1997年4月)消費が縮小、住宅投資と民間企業の設備投資の大幅な減少が
影響した1998年が挙げられる。

 だが一方、実は2002年から2006年の間は、戦後最長と呼ばれるくらい長期
にわたって景気拡大局面が続いた時期であった。といっても、多くの一般市民
はこの好景気を実感としては得ていないと思われる。2005年頃に個人の株式
投資ブームがくるなど「プチバブル」という言葉が登場してきたが、むしろこ
の前後から格差論が盛り上がりを見せ始めた記憶の方が強い。山田昌弘の『希
望格差社会』(筑摩書房)の刊行が2004年のこと。『現代用語の基礎知識』選、
ユーキャン主催の新語・流行語大賞の上位に「格差社会」がランクインしたの
は2006年のことだった。実際、戦後最長と呼ばれる景気拡大期といったとこ
ろで平均経済成長率として見れば、1.8パーセントに過ぎなかったのだ。
 ただし、この時期が日本経済が停滞期から脱するチャンスであったのは確か
だろう。だが、それも2006年にはそのはしごが外されてしまう。この年の初
頭に始まった、当時のライブドア代表堀江貴文への東京地検特捜部による強制
捜査は、株式市場の暴落を引き起こす。いわゆる「ライブドア・ショック」だ。
この出来事が与えたデメリットは、株式市場への影響だけではなかった。注目
を集めていた起業・ベンチャーブームの火を完全に消し、ICT(情報通信技術)
という新しい成長産業の芽を摘んでしまったのである。
 そして3月、日本銀行による量的緩和政策が解除される。解除のタイミング
が早過ぎたことがその後の日本経済が復活できなかった理由であると、経済学
者らによって批判されている。

 記憶に新しいリーマンブラザーズの破綻は2008年のこと。その後のリーマ
ンショックを経て、2009年末より世界の主要諸国は株価、物価指数、景気な
どの指標で回復の兆しを見せたが、日本経済は現時点においても回復の兆しは
見えていない。それどころか、リーマンショック後の円高の流れは、輸出産業
全般を大きく疲弊させている。当初、日本の打撃はそんなに大きくないと言わ
れていたリーマンショックの影響を、日本が一手に引き受けている感すら出て
きている状況である。

 一方、最近よく耳にする言葉が「デフレ不況」である。物価の下落が長期に
わたって続く現象がデフレーション=デフレである。少し待てば値段が下がる
状況が続けば、消費者はすぐにはモノを購入しなくなる。モノが売れないとな
ると、さらにモノの値段は低くなる。そうすると、当然企業の収益は落ちて、
従業員に払う賃金も下がる。さらに消費は停滞してしまう。これがぐるぐると
循環してしまう状態がデフレスパイラルであり、日本経済の停滞の主な原因と
考えられている。

 日本で消費者物価指数がマイナスに転じたのは1998年。ここから2005年ま
では下落が続く。デフレの期間を明確に示すなら、1998〜2005年ということ
になる。
 もちろん、これ以前にはバブル崩壊に伴う株価や土地の資産価格の暴落があ
った。ものの値段が下がり続け、それが消費を落ち込ませて不況を招くという
構図は、バブル以降続いているものでもあるのだ。つまり、デフレを原因とし
た不況が90年代全体を覆っているのだ。

■キャバクラ化する日本?

 本連載の前提となる90年代以降の不況、及びその原因となったデフレとは
こういったものである。この辺りの日本のマクロ経済の状況は、経済について
はド素人の僕が述べるまでもなく、多くの経済論陣による解説書(新しいとこ
ろでは田中秀臣『デフレ不況 日本銀行の大罪』(朝日新聞出版)が、基礎的な
話であれば岩田規久男『景気ってなんだろう』(ちくまプリマー新書)辺りが
オススメ)が出ている。なので、話題は再び『小悪魔ageha』の話に戻ること
にする。

 さて、『小悪魔ageha』に登場する読者モデルたちの多くは元もしくは現役の、
地方のキャバクラ嬢である。『小悪魔ageha』をつぶさに研究するライタ
ーの松永英明によると、この雑誌を表す簡単な定義は「キャバクラ嬢をメイン
ターゲットとするファッション雑誌」だという。雑誌内では「キャバクラ」と
いう言葉こそ使われてはいないが、「夜職」と呼びそれを肯定する姿勢が貫か
れている。
 ただし、モデルも読者もキャバクラ嬢には限られていないのがミソである。
キャバクラの実用情報はないし、求人の募集や広告などがあるわけでもない。
つまり、キャバクラの業界誌的な要素は皆無である。
「キャバクラ」の語もいっさい出てこない。キャバクラ嬢でもない読者がたく
さんいて、この雑誌に憧れてキャバクラ出身ではない読者モデルが登場してい
るのだ。とても奇妙な感じではあるが、キャバクラ的なファッションはすでに
ジャンルとして形成されており、キャバクラ嬢という生き方も、憧れる生き方、
職業の対象となっている。この辺は、三浦展が、『女はなぜキャバクラ嬢にな
りたいのか?』(光文社新書)という本の中で「下流社会化」する日本の事例研
究のテーマとして扱っているので興味ある向きは、そちらを読んでいただけれ
ばと思う。

 さて、ここから読み解いていきたいのは、デフレカルチャーとしてのキャバ
クラ文化である。『小悪魔ageha』の最大時の部数は約30万部だろうか。それ
だけの読者が『小悪魔ageha』的な価値観を共有している(いた)のだ。
 こうしたキャバクラの一般化を、女性の性意識の問題、モラルの低下などと
結びつけるのは筋違いである。『小悪魔ageha』に登場する読者モデルたちの
価値観とは、「夜職(つまり水商売、風俗業)」を、お金を稼いでぜいたくす
るための仕事と捉えているわけではないことがわかる。むしろ『小悪魔ageha』
においての「夜職」はぎりぎりの生活を維持するための手段である。先ほどか
ら触れているように、ギャルの価値観の中で「堅実」という要素は大きな割合
を占めているのだ。
 2009年春で『小悪魔ageha』を卒業したナンバーワンアゲモ(アゲモ=『小
悪魔ageha』のモデルの呼称)の桃華絵里は、シングルマザーとして静岡のキ
ャバクラで働きながら子育てをする生活を営んでいたが、その後アゲモの仕事
を始めて人気が出た口である。
 彼女同様、シングルマザーのアゲ嬢(購読層、もしくは『小悪魔ageha』に
出てくるようなファッション・価値観の女性のこと)は少なくないようだ。『小
悪魔ageha』をシングルマザー読者向けの情報に特化し(例えばキャラ弁当の
レシピとか)、親子でファッションを楽しむことを提唱した『I LOVE mama』
は、当初は増刊号として発行されたが、すぐに定期刊行化している。

 デフレカルチャーとしてのキャバクラを考える上で重要なのは、疲弊した地
方経済において、女性の雇用を担う産業であるという部分。男女雇用機会均等
法が施行された80年代末は、好景気を背景に女性の企業社会への進出は急速
に進んでいたが、90年代以降は不況の下、全体の雇用が一気に冷え込んでし
まった。特に打撃を被ったのは、雇用のない地方在住の女性だ。そんな彼女た
ちの雇用を一手に担う存在として注目されたのがキャバクラだったのである。
 公共の育児システムや福祉手当が充実しているとは言い難いこの社会におい
て、女手ひとつで幼い子どもを育てていく。そうした環境で働く女性労働者の
存在を『I LOVE mama』は浮き彫りにしているのだ。

 現代の働きながら子どもを育てる女性のロールモデルとして考えられている
存在に勝間和代がいる。しかし、スーパーエリートの彼女はロールモデルには
適さない。彼女がたどった学歴、職歴、資格どれもハードルが高すぎて誰も真
似できない。ライフコースもライフスタイルも、ふつうの人にはとても真似で
きないのだ。だが、同じシングルマザーでも地方でキャバクラに勤めながら今
の地位を築いた桃華絵里なら、もっと身近なロールモデルとして考えることが
できるだろう。

 少しだけキャバクラの歴史を紐解いてみたい。キャバクラの誕生は1980年
代半ばのこと。キャバレーでもクラブでもない、女子大学生を中心に素人のホ
ステスを使った店が繁盛し、その業態の店が急速に広まっていったのだ。
 これは「大学のレジャーランド化」が問題化した時期、大学生が新しい消費
層としてマーケットに注目された時期と重なっていたのだろう。フジテレビ系
のバラエティー番組『オールナイトフジ』が放送され、女子大生ブームと呼ば
れた時期とも重なっており、女子大生という記号が商品化した時代のヒット商
品としてキャバクラが登場。一方、女子大生にとっては、サークルの活動や学
校に着ていくブランドの服などを買う資金を得るためのアルバイト先として機
能していたのだろう。

 80年代にライトな風俗産業として登場したキャバクラが、90年代の不況を
越えて、疲弊した地方経済の雇用を支える産業へと変化した。そして、『小悪
魔ageha』『I LOVE mama』に見られるような文化を形成する。こうした変化
をたどるキャバクラとは、まるで日本経済がたどったデフレ・不況の姿を忠実
に写し取る鏡のようである。

■デフレが正しいということではなく

 今後、本メールマガジンの場を借りて、90年代以降の不況とそれに伴う文
化を“デフレカルチャー”として取り上げていくつもりだが、その前提として
の筆者の立場を明確にしておきたい。
 本連載では、デフレ・不景気下での生活を余儀なくされた世代が、それに適
応する生き方を見つけ、それが文化として形成される模様を取り上げていく。
現代の状況に「デフレカルチャー」とわざわざ名前を付けて語る理由は、ネガ
ティブに語られる若者論(例えば「若者の○○離れ」など、消費に対する価値
観の変化を、若者の好奇心の低下と結びつけて論じるような)へのカウンター
になり得ると考えているからである。
「デフレカルチャー」という言葉の初出は2009年末、TBSラジオで宮崎哲弥
氏がパーソナリティを務める『BATTLE TALK RADIO アクセス』にゲスト出
演したときに思いついたものである。以降、宮崎氏、経済学者の田中秀臣氏、
評論家の荻上チキ氏らがこの言葉をさまざまなメディアで使用してくださっ
た。また、宮崎氏からは「しかし他方で過剰適応の可能性、ローカルミニマム
(局所における狭い選択肢の中での最適解)に嵌ってしまっている可能性も指
摘しておかなければならない」(『日本経済復活 一番かんたんな方法』(光文
社新書)勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之共著、P.60)という返答をいただいて
いる。デフレカルチャーの検証には、この視点を踏まえることを忘れないよう
にしたい。
 筆者は「デフレカルチャー」を提唱しているからといって、デフレだから良
かったんだ、デフレ万歳といった立場を主張しているわけではない。むしろ、
それを脱却した社会を望んでいる。
 90年代以降の日本の文化を、不況という下部構造からもう一度検証しよう
というのが筆者の目的である。それが日本の未来を再確認する上でなんらかの
役に立つことができればと考えている。

┌─────────────────────────────────┐
│
│ 速水健朗(はやみず けんろう)
│ 1973年生まれ。フリーランス編集者、ライター
│ パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍、
│ ムックの企画、編集、執筆などを行う。主な分野は、メディア論、若者・
│ 通俗文化全般、ショッピングモール研究、ビジネス・マーケティングなど。
│ TBSラジオの「文化系トークラジオLIFE」 にレギュラー出演中、朝日新
│ 聞「売れてる本」欄連載中、「夜のプロトコル」という定期イベント主宰。
│ 単著に『タイアップの歌謡史』(洋泉社y新書)、『自分探しが止まらない』
│ (ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女た
│ ち』(原書房)、共著に『バンド臨終図鑑』(河出書房新社)などがある。
│  http://www.hayamiz.jp/
│
└─────────────────────────────────┘

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次回は7月8日、配信予定です。
ご意見、ご感想などはingen@kodansha.co.jpまでお願いいたします。

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