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  現代新書カフェ
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□        講談社 現代新書カフェ〜074〜                 
□            2010年8月18日                   
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  ‖ 《1》8月新刊4点です!
  ‖ 《2》好評連載第3回「デフレカルチャー」 速水健朗               
   ‖              
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  現代新書カフェにようこそ。
  
  100歳以上の不明者が全国各地でずいぶん判明して話題になっていますが、
  基本的に届け出がシステムの基本ですから、
  届けることに積極的な意義が見い出せない以上、いまの地域社会の現状では、
  これくらいの不明者がいても、仕方ないよなあとも思ったりもします。
  (ちなみに身元不明死者数は記録にある25年間で1万6000人あまりとか。
  http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100806-OYT1T01149.htm)

  いちいち確認しないのは、行政の怠慢だという言い方もありますけど、
  そうやって行政の仕事をどんどん増やしていいものかとも思ったり、
  技術的には、総背番号制などと絡めて、確認システムをつくることは
  可能でしょうけど、それを認める社会にするのかどうか、とも思ったり、
  なかなか根深い問題だなあと、暑さに半ばふやけた頭で考えるのです。
  
   
  今月の新刊も、
  大好評『決算書はここだけ読め!』の第2弾、
  http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2880644   
  とりわけ落語好きにはたまらない堀井さんの新刊など、
  多彩なラインアップでお届けします!
 
   
    
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◆  《1》新書8月新刊4点です!◆
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    ◇2062『人間関係のレッスン』向後善之 定価756円
 http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288062


                      【担当者挨拶】
 著者の向後氏は「はじめに」でこう書いています。
「私は、都内のカウンセリングオフィスでカウンセリングをしていますが、こ
こ数年、人間関係の悩みでいらっしゃる方が増えています。
 彼らの多くは、自分では普通にふるまっていると思っているのに、職場の上
司や同僚との関係が、なんとなくどうもうまくいかないと感じています。その
ために、精神的に落ち込んでしまったり、不安になったりします……」
 このようにカウンセラーに相談するほどでなくても、「人間関係がなんとな
くどうもうまくいかない」と感じている人は、多いのではないでしょうか。
 本書は、サラリーマン経験を経てカウンセラーになった著者が、ほんとうの
自分の感情や自分らしさを見つけることで、新しい人間関係をつくっていく方
法を、やさしく、わかりやすく語ります。人間関係のなかで大きなダメージと
なるモラルハラスメントについても、即使える対処法をアドバイスします。
                                (KH)
    

  
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  ◇2063『未来を変えるちょっとしたヒント』小野良太 定価756円
 http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288063


                      【担当者挨拶】
 みなさんは、日頃自分の未来のことを考えていますか? 翌日、1週間後、
1ヵ月後……、それくらいなら考えている人のほうが多いでしょう。それでは
1年後、5年後、10年後はどうでしょう? 「そんな先のことはわからないよ」
という人のほうが多くないでしょうか? でもそれはすごーくもったいないこ
となのです。
 小野さんが教えている「未来学」は、一言でいうと、「未来を自分で創って
いくための学問」です。そこには「未来はすべてが不確定である」という大前
提があります。
 たとえばいまの日本では、未来について明るいイメージを描ける人が少ない
ということがよく言われます。とくに若い人にその傾向は顕著のようです。な
ぜそうなのでしょう? メディアが流しているネガティブ情報に何となく影響
されているだけではないでしょうか?  
 そう、大切なのは「未来に対するイメージを自分で持つ」ということです。
後から見ると、「よくあんなことが実現できたねえ」ということも、すべて個
人が未来のイメージを描くことからスタートしています。否定的なイメージか
らは残念な結果しか生まれません。
 と、ここで書いていることはすべて小野さんの受け売りです。本書では多く
の実例をあげながら、未来をイメージするためのコツを解説していきます。
 どうせなら未来は自分で創ったほうが楽しいと思いませんか? そう思った
方は是非本書を手に取ってみてください。必ず新鮮な気持ちになれますよ。
                               (TH)
   
  
  
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 ◇	2064『決算書はここだけ読め! キャッシュ・フロー計算書編』
                        前川修満 定価756円
 http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288064
  
            【担当者挨拶】
 キャッシュ・フロー計算書。まだ、耳になじみのない方も多いかもしれませ
ん。実際、歴史の浅い書類で、今のところ上場企業にしか公開は求められてい
ません。その名の通り、会社のお金(キャッシュ)の流れをあらわすものです。
お金をどれだけ稼ぎ、何に使い、また貸し借りはどうなっているのかというこ
とが細かく記されています。“第三の決算書”などとよばれ、年々その重要性は
増しています。
 というのは皆さんもご存知のとおり、デフレの時代において、価値があるの
はお金。どれだけお金を稼げるのか、借りられるのか。これが現代の企業経営
にとって何より大事なことです。そこで登場したのが、資金繰りや利益の質が
わかるキャッシュ・フロー計算書です。
 また、単純にお金だけの増減しか表示しないからこそ、他の決算書類と異な
り会社の実態を正直にあらわします。黒字なのに倒産してしまう会社、赤字な
のに倒産しない会社……キャッシュ・フロー計算書を見れば、その理由は一目
瞭然です。
 好評いただいた前著『決算書はここだけ読め!』に引き続き、ポイントを絞
り読み手の立場にたった会計学を分かりやすく解説しています。本書を読んで
いただければ、テレビや新聞の報道だけでは分からない企業経営の実態が見え
てくるかも。(NK)

 
 
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      ◇2065『江戸の気分』堀井憲一郎 定価777円
 http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=288065

            【担当者挨拶】
「落語を通して、江戸の気分をリアルに想像してみよう、という新書である。
 落語は、口承芸能なので、江戸のころの空気がところどころに残っている。
もともと『文政天保のころの若者がやっていた馬鹿は、いまもきちんと可笑し
いから楽しもう』という芸能である。若者の馬鹿馬鹿しさのうしろに、その当
時の生活の空気が感じられるのだ。そこを取っかかりに江戸を暮らしてる気分
になってみる……」――まえがきより

 たとえば、病いとどう向き合っていたか。江戸庶民は病いと戦おうとはしな
かった。戦うのではなく、「引き受けて」いた。
あるいはお金の話、食べ物の話、死の話……。
 落語の語りに乗って読み進めていくと、いまの暮らしを相対化する視点を得
られます。それで何かが劇的に変わるわけではないかもしれませんが、明日を
陽気に生きるヒントになります。
 ちなみに、個人的には江戸庶民の花見(第七章)が好きですね。堀井さん
曰く、「馬鹿の祭典」。馬鹿馬鹿しい趣向に命を賭けていて、それはいまの花見
の比ではありません。とても楽しそう。(K・H)
  

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◆  《2》連載企画        ◆
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     C  
     D 新連載!「デフレカルチャー」   速水健朗
     C 第3回 「“着うた演歌”の誕生」 
     D
     CDCDCDCDCDCDCDCDCDCDCDCDCD

■着うた系女性シンガーの台頭

 着うたの配信チャートで上位の常連となり、次第に“着うたクイーン”“ケ
ータイ世代のカリスマ”としてその存在が知られるようになった西野カナ。2009
年10月発売の7枚目のシングル『もっと…』は、先行配信着うたが20万ダウ
ンロードを記録し、その後発売されたCDシングルは、彼女にとって初のオリ
コントップテン入りをもたらした。その彼女がブレイクしたのはその翌年、つ
まり今年のことである。5月発売のシングル『会いたくて 会いたくて』、そし
て6月発売のアルバム『to Love』がヒット。久々の大物級(大塚愛以来?)
の大ブレイク女性シンガー登場といった感が強い。

 西野カナのブレイクは唐突なものではなく、ちゃんと前振りがあった。着う
た経由で人気が出る歌姫、もしくは、そういうマーケティングの手法で登場す
る“着うた系歌手”の通り道が半ば築かれつつあったのだ。そのはじめは『こ
こにいるよ feat.青山テルマ』で登場した青山テルマである。着うたによるプ
ロモーションが功を奏したこの曲のヒット以降、ポピュラー音楽マーケットの
中心は、チェーン系CDショップの店頭から、ケータイの着うたシーンへと移
行したのだ。

 着うた系女性シンガーと呼ばれる歌手たちには、西野カナを筆頭に、加藤ミ
リヤ、JUJU、AZU、Tiara、グループのJulietなどがおり、彼女たちはEXILE
とAKB48とジャニーズという寡占気味の音楽シーンにおける、新たな勢力と
して登場してきている。

 この着うたシーン発の女性シンガーたちは、「会いたい」「せつない」「そば
にいたい」などといった語彙の共通性や、ギャルっぽいルックスなど、共通点
が多い。詳細は後に回すが、社会学者の鈴木謙介は、こういった女性歌手たち
を「ギャル演歌」と評している
(http://blog.szk.cc/2010/04/13/japanese-girls-heartbreak-songs/)。
 ネット界隈では、「会いたい」系などと呼ばれるが、うまく言い表しているの
は前者だろう。さらに、新しく提案するのであれば、歌詞にも頻繁にケータイ
が登場し、ケータイの着うた経由で火が付いたわけだから、ケータイに重きを
置いて“着うた演歌”でもいいだろう。

 ブレイク中の西野カナは、浜崎あゆみと比較されることが多い。「共感」を
武器とした同性からの支持、恋愛依存症的な歌詞の世界観など似た部分は多い。
浜崎あゆみが00年代もっともカラオケで歌われた歌手だったように、10年代
のカラオケでもっとも歌われる歌手になる可能性が、西野カナにはあるように
思われる。だが、アーティストとしての表現手法を比較する限りでは、音楽面
にしても歌詞の表現にしてもいささか異なっている。

 浜崎あゆみは、漠然とした喪失感や失恋の悲しみ、また初期においては過去
のトラウマといったものを、具体性のまったくない心象風景描写として歌詞に
描き出し、結果として共感できる感情を聞き手と共有する書き手である。一方、
西野カナが提示する悲しみは、心象風景ではなく個別具体的である。

   Oh 誰といるの? どこにいるの?
   返事ないままじゃ眠れないよ
   メールも電話も“会いたい”も
   いつも全部私からで
   『もっと…』作詞:KANA NISHINO

「会えない」ことのつらさ、返事がもらえない、かまってもらえていない。苦
痛の中身が明確にわかる。浜崎の共感ポイントは「あー、この人に何があった
のかは知らないけど、私にもなんかわかる」といった感傷をベースにしたもの
だが、西野の場合は「それわかる、つい先週も同じ気持ちになったよ」という
圧倒的に距離の近い共感を呼び起こすのだ。若者風にいうなら、「せつねぇ」
といったところだろう。

■着うた演歌とケータイ小説

 ギャル演歌、着うた演歌といっても、音楽的に演歌っぽいわけではない。西
野カナの楽曲のバックトラックは、近年の洋楽チャートによく見られるような
水っぽいメロウなR&B路線である。かつての浜崎よりも洗練されている。そ
れを演歌と呼ぶのは、歌詞に描かれる男女の立ち位置の問題である。鈴木謙介
は、「ギャル演歌」の定義を、「内向的でうじうじしていて、依存心が強く、
本当は男に引っ張ってほしいけど、でもそれが叶わないからがんばって一人で
生きるんだってパターン」としている。

『北の宿』は、着てもらえないことがわかっているセーターを、未練たらたら
編む話だし、『津軽海峡・冬景色』は、女が冬に青森から北海道に渡る連絡船
で一人旅をして、カモメを見て泣く話。捨てられた女ごころをウェットな風景
として描くことは、かつては演歌の役割だった。着うたシーンで流行る楽曲の
多くも、捨てられる女の歌である。特に、その傾向が強いのが加藤ミリヤであ
る。

  「今日で最後」って
  言い聞かせながら
  勝手な奴に会いにいく
  なのに会えると思えば嬉しくて
  それでも胸は苦しくて
  向かう足は速まって 嘘でも抱きしめられたくて
  大事にされないのわかってて
  また同じこと繰り返して
  わがままに付き合ってるだけ
  『WHY』作詞:Miliyah

  I know you want me いつかは
  信じてもbad (bad)
  あなたは応えてくれない
  I just wanna falling down (down)
   彼女と毎晩一緒で 電話も出ない
   I don't wanna talk about your girlfriend
   こんなに散々私を期待させておいて
   罪な人 もうさよなら
   〈中略〉
   You don't need me
   諦めかけた頃に携帯が鳴る
   またふりだし
   ハッピーエンディングを想像してる
  『FREE』作詞:Miliyah

 これら両曲に共通するのは、男に捨てられたといっても、その男が彼氏では
なさそうという部分である。『WHY』での相手は「勝手な奴」だ。「大事にさ
れない」のを知りつつ、「嘘でも抱きしめられ」たいと思っている。『FREE』
の主人公は、相手が「彼女と毎晩一緒」なことを知っている。自分から連絡を
しても「電話も出ない」。なのに、主人公が「諦めかけた頃」には連絡をして
来るのだ。都合がいい。それでも主人公は「ハッピーエンディング」を「期待」
してしまう。

 ポイントは、男女が対等な関係にある恋愛ではない部分になるだろう。不倫
は演歌におけるポピュラーなモチーフであった。道を踏み外しているからこそ
燃え上がる、戻れなくても構わないと歌う『天城越え』、報われないことを知
りながら抱かれて、ツバメが飛び立つのをただ見送る『越冬つばめ』。こうし
た歌から浮かび上がるのは、妻子持ちの男性とそれに翻弄される女の関係であ
る。さらに背景に踏み込むなら、家庭を持つ甲斐性のある男性と若い女といっ
た経済的、社会的にも非対称である関係性まで見通すこともできそうだ。

 だが、おそらく加藤ミリヤの歌における男女の立ち位置とは、それとは違う
ように思われる。都合よく遊ばれて捨てられる女、報われないことを知りなが
らも抱かれてしまうという関係性は、演歌の男女関係と違いはない。ただし、
関係性はなんというかカジュアルである。電話に出なかったり、かと思うとか
けてきたり……。『WHY』においては「また同じこと繰り返して」、『FREE』
においては「またふりだし」といったように、関係性はループしてしまってい
るのだ。かつての演歌における不倫関係にある男女の苦しみとは、女の方から
は電話もできない(家にかけると家族が出るから)関係が生み出したものであ
ったが、着うた演歌においては、電話をしても出てくれないといった関係へと
変化した。経済的、社会的立ち位置の非対称性ではなく、通信手段の変化が生
むコミュニケーションの変化というものが、ここから捉えられるかもしれない。

 前出の西野カナの『もっと…』もそうであるように、一方的に恋い焦がれな
がら、相手にされない恋愛の歌は、着うた演歌の分野の定番である。そして、
西野の『もっと…』に「メール」が出てくるように、携帯の着うたシーンから
出てきた彼女たちの歌には、携帯電話を介したコミュニケーションの模様が歌
詞の中に多く登場する。

  (気付)かない(フリ)してた
  あなたの携帯いつもロックされてる
   (私)の電話には滅多に出ない
   気になる だけどそんなこと聞けないよ
     『SAYONARAベイベー』作詞:Miliyah

『SAYONARAベイベー』では、携帯電話の機能を通じて男性からの拒否の意
志が伝えられる。携帯のロック機能、つまりパスワードを入れなくては操作で
きない設定を、男は使用している。この男と主人公の女は恋人同士。彼は彼女
に、「僕には君しかいない」「愛してる 君だけを」と繰り返す。しかし、女
は滅多に電話に出なくなった男の言葉に疑いを持っている。彼女は、彼の携帯
電話には自分以外の女性との通話記録やメールのやりとりの痕跡が残されてい
るのではないかと気にしている。だから彼の携帯電話を盗み見ようとしたのだ。
そうでなくては、彼の携帯電話にロックがかかっていることは知りようがない。

 こういった恋愛依存症的な傾向、そして依存心の強さは、ケータイ小説の特
徴とよく似ている。身体感覚と緊密なため、コミュニケーション依存症を呼び
起こしやすい携帯電話、携帯メールが生み出すオブセッション的な恋愛の在り
方。着うた演歌とケータイ小説の共通点は、それを描いているところにある。
前の鈴木謙介は「基本的にギャル演歌はハッピーさから遠ざかるベクトルにど
う向き合うかっていうテーマを課せられていることが多い」といっている。こ
の自ら悲劇を招き寄せてしまう構図もまさにケータイ小説的である。メロウな
R&Bのバックトラックにケータイ小説的な歌詞をのせたものが“着うた演歌
”であるといってもいいだろう。

 ケータイ小説の突然のブームは、出版業界にとっては青天の霹靂だった。地
方や都市郊外に住む女子中高生が受容する小説のニーズどころか、彼女たちが
小説の読者になる可能性があることすら中央の出版業界の人間たちは想像して
いなかった。そもそも、地方の人は小説を読まないという先入観すらあったは
ずである。そう思うのも無理はない。小説が売れる地域は、圧倒的に都市部に
集中している。地方の人たちがそもそも小説を読むというマーケットデータす
らないも同然だったのだ。

 その突如発見された(ように見える)新しい市場に、他のコンテンツジャン
ルが目を付けないわけはない。ケータイ小説の購買層を分析し、彼女たちがど
のような消費傾向を持ち、何に興味を持つのかには、マーケッターの多くが注
目したはずである。着うた演歌は、出るべくして出たヒットのはずだが、これ
が仕掛けられた企画なのか、ケータイ小説のように自然発生的に人気を得たジ
ャンルなのかは、まだはっきりとしない。現時点での判断では、その中間とい
う印象だが、実際に受けている歌手に関しては、自然発生的な割合の方が若干
高いように思う。

■小森純の病み語り

 また、ケータイ小説ブーム以降のケータイ小説っぽい文化との接続可能なア
イテムをもう一つ投入してみたい。それは、ギャルのカリスマのひとり、小森
純の自叙伝である。

 小森純は、今のギャルブームにおいて、益若つばさと並ぶその中心的存在。
小森は高校生時代より読者モデルを始め、ティーン雑誌のモデルを25才まで
つとめ、今年の6月号を最後に『Popteen』を卒業。その姉妹誌として同年か
ら月刊化された『Popsister』のレギュラーとして活躍し、テレビのバラエティ
などに出演する機会も多い。その彼女が今年の初頭に刊行した自叙伝『Pure』
(角川春樹事務所)は、波瀾万丈の人生をあっけらかんと語るおもしろい本で
ある。

 中学時代から親への反抗を皮切りにぐれ始めた小森は、数々の悲恋を乗り越
え、モデルの仕事で挫折しかけながらも『Popteen』の表紙を飾るトップ読者
モデルへと上り詰めていく。彼女が生まれ育ったのは「地元意識の強いヤンキ
ーの街」神奈川県川崎市。中学時代、地元のヤンキー仲間と楽しく遊んでいた
小森は、「高校ぐらいは行ったほうがいいかな」と進学。高校2年生の時、友
だちに誘われてスナップ撮影会に参加するようになり、いつしか『Popteen』
のレギュラーの座を得るのだ。

 読者モデルは、モデル事務所に所属するモデルたちとは違いアマチュアであ
る。『Popteen』始め、ギャル雑誌は、ページの多くが街角スナップ写真で構成
され、基本的にはノーギャラ。その中からレギュラーに昇格した一部の読者モ
デルには、メイクやスタイリストの付くスタジオでのファッション撮影の仕事
が回ってくる。

 読者モデルとしてのスタートを切った小森だが、当時の彼氏にはひどい目に
遭っている。付き合って半年の彼氏から強い束縛を受けていたのが、次第にデ
ートDVに移行したのだ。「暴力をふるった後のT(彼氏のこと:引用者注)
はすっごくやさしい。そこにますますハマった」というが、これがもっとも危
険な共依存の関係である。デートDVで暴力を受けた本人が、無意識のうちに
相手に依存されていることに自分の存在価値を見出し、暴力をふるわれること
を受け入れるようになっていく。そうなると、互いにそこから抜け出せなくな
り、暴力はますますエスカレートする。小森は、忙しくなっていくモデルの仕
事と彼氏の束縛や暴力に悩まされ、大胆な行動に出る。「本気で死ぬ気なんて
ない。Tに心配してほしいから。気を引きたかっただけ」。ついにリストカッ
トに至ったのだ。

 高校を卒業し、DV彼氏とも別れた小森は、またも駄目な男に振り回される。
まずは、仕事をせずに小森にたかるヒモのR。次は、職人(ギャルがよく使う
用語で主に肉体労働者を指す。ギャルたちが付き合う相手としてもっとも人気
のある職業)で働き者だが男友だちや仕事の先輩との付き合いに忙しくてまっ
たく小森にかまってくれないK。そして、腕中に根性焼きと入れ墨の入ったヤ
ンキー体質のEは、結婚したことを隠して小森と付き合っていた。

 小森は彼氏に強く依存する。恋愛がうまくいかなくなると仕事の約束をすっ
ぽかすこともたびたびである。そして、合コンで知り合い、付き合い始めた同
じモデルの「超ギャル男」のSとは、公に知られた恋人同士として二人でシ
ョーのランウェイを歩いたり『Popteen』の表紙を飾るなど、うまく行きかけ
るが、相手の浮気によって関係は崩れ始め、最終的には、相手の側から別れを
切り出される。

 小森の失恋のパターンには共通点が多い。付き合いが始まると、彼氏と一緒
にいなくては気が済まない。生活のすべてが彼氏との関係に左右されるように
なるのだ。彼氏にはそれが重たがられ、距離を置かれるようになる。

 あまりにケータイ小説的であり、着うた演歌的である。特に、強い束縛から
デートDVへと発展し、共依存の状態から抜け出せなくなって最悪の状況を迎
えるあたりは、『赤い糸』『恋空』などにも見られるように、ケータイ小説に
おける鉄板の展開。また、仕事以外の時間はいつでも一緒にいたい、会いたい
と切望しながらも、先方からは無視されたり、浮気をされてしまう様子は、西
野カナ、加藤ミリヤの鉄板パターンである。

 ただし、こうした小森のメンタルな波の激しさは、むしろ彼女の人気の源泉
でもあるようだ。彼女は、彼氏が替わるたびにファッションの傾向やメイクも
変わる。そして、DVを受けた過去や失恋などを隠さず開けっぴろげに語る。
いわゆる「病み語り」である。かつて、80〜90年代の『ティーンズロード』
(ミリオン出版)などのレディース、ヤンキー雑誌に見られた「病み語り」は、
『小悪魔ageha』(インフォレスト)のようなギャル雑誌に受け継がれている。
自分の「病み」、つまりメンタルな弱みをつつみ隠さない態度が共感を集める
対象となるのは、ケータイ小説が支持され、着うた演歌が支持される構図と同
じなのだろう。

 着うた演歌、ケータイ小説、小森純。これら男性への依存心の強いコンテン
ツに人気が集まる昨今の状況は、フェミニストなどには目も当てられない惨事
と映るのではないだろうか。こうした状況がなぜ生まれているかについて、そ
してどうデフレカルチャー――不況に適応した文化の在り方――であるかにつ
いては、次回にもう少し詳しく触れてみたいと思う。 
                                (つづく)


┌─────────────────────────────────┐
│
│ 速水健朗(はやみず けんろう)
│ 1973年生まれ。フリーランス編集者、ライター
│ パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍、
│ ムックの企画、編集、執筆などを行う。主な分野は、メディア論、若者・
│ 通俗文化全般、ショッピングモール研究、ビジネス・マーケティングなど。
│ TBSラジオの「文化系トークラジオLIFE」 にレギュラー出演中、朝日新
│ 聞「売れてる本」欄連載中、「夜のプロトコル」という定期イベント主宰。
│ 単著に『タイアップの歌謡史』(洋泉社y新書)、『自分探しが止まらない』
│ (ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女た
│ ち』(原書房)、共著に『バンド臨終図鑑』(河出書房新社)などがある。
│  http://www.hayamiz.jp/
│
└─────────────────────────────────┘

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次回は9月8日、配信予定です。
ご意見、ご感想などはingen@kodansha.co.jpまでお願いいたします。

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